迷走神経反射とは?突然気を失う原因・前兆と対処法【神経内科専門医が解説】
「朝礼で立っていたら、急に気分が悪くなって倒れた」
「採血をしたあと、冷や汗が出て目の前が真っ暗になった」
「電車の中で立っていたら、気が遠くなってしゃがみ込んだ」
このような症状の原因として、とてもよくみられるのが**迷走神経反射(血管迷走神経反射)**です。
特に若い方や学生さんでは珍しくありません。
実際の外来でも、「学校で倒れました」「貧血でしょうか?」と受診され、詳しく話を聞いてみると迷走神経反射が疑われるケースをよく経験します。
迷走神経反射そのものは、多くの場合、命にかかわる病気ではありません。
しかし、意識を失う原因には不整脈などによる心原性失神や、てんかんなど別の病気が隠れていることもあります。
そのため、「倒れた=迷走神経反射」と自己判断することはできません。
この記事では、迷走神経反射の特徴や前兆、貧血との違い、倒れそうになったときの対処法、てんかんとの違い、病院を受診した方がよい症状について、神経内科専門医がわかりやすく解説します。
迷走神経反射とは?
迷走神経反射は、失神を起こす代表的な原因のひとつです。
何らかのきっかけによって自律神経のバランスが変化し、血圧が低下したり脈が遅くなったりすることで、一時的に脳への血流が減少します。
その結果、
- 気が遠くなる
- 目の前が暗くなる
- 立っていられなくなる
- 一時的に意識を失う
といった症状が起こります。
通常は倒れたり横になったりすることで脳への血流が回復し、比較的短時間で意識が戻ります。
若い人や学生にも多い
迷走神経反射は、若い人にもよくみられる失神の原因です。
特に成長期の学生さんでは、
- 朝礼などで長時間立っている
- 通学中の満員電車
- 暑い体育館
- 部活動のあと
- 睡眠不足
- 朝食を食べていない
- 水分が不足している
などをきっかけに、気分が悪くなったり倒れたりすることがあります。
成長期には身体が大きく変化する時期でもあり、血圧や心拍数を調節する自律神経の働きが不安定になりやすく、立ちくらみや失神がみられることがあります。
「若いのに突然倒れたから、重い病気なのでは?」と心配される方も多いですが、若年者の失神では迷走神経反射などの反射性失神が原因となることも少なくありません。
ただし、若いから大丈夫というわけではありません。
若い人でも心臓の病気やてんかんなどによって意識を失うことがあるため、症状によってはきちんと原因を調べる必要があります。
迷走神経反射はどんなときに起こる?
迷走神経反射には、きっかけがあることが多いのが特徴です。
代表的なのは、
- 長時間立っていた
- 暑い場所にいた
- 満員電車に乗っていた
- 採血や注射を受けた
- 強い痛みを感じた
- 血を見た
- 強く緊張した
- 水分が不足していた
- 疲労や睡眠不足があった
などです。
また、排尿や排便など、特定の状況に関連して失神することもあります。
**「何をしているときに倒れたのか」**は、失神の原因を考えるうえで非常に重要な情報です。
倒れる前の「前兆」が重要
迷走神経反射では、突然何の前触れもなく意識を失うというより、倒れる前に前兆を感じることが多いのが特徴です。
たとえば、
- 気持ちが悪くなる
- 吐き気がする
- 冷や汗が出る
- 顔色が悪くなる
- ふわっとする
- 目の前が暗くなる
- 視野が狭くなる
- 耳が遠くなるように感じる
- 力が抜ける
- 「このままだと倒れそう」と感じる
などがあります。
こうした前兆を知っておくことは、診断だけでなく、転倒を防ぐためにも非常に重要です。
「本人が覚えているか」も大切
失神の原因を考えるときには、意識を失う直前のことを本人が覚えているかを確認します。
迷走神経反射では、
「気持ちが悪くなった」
「冷や汗が出た」
「目の前が暗くなった」
「これは倒れそうだと思った」
など、意識を失う前の経過を本人が覚えていることがよくあります。
これは迷走神経反射を考えるうえで重要な手がかりになります。
一方で、何の前兆もなく突然意識を失った場合には、不整脈などによる心原性失神だけでなく、てんかんなども鑑別する必要があります。
倒れているときの様子は「目撃者」に聞く
意識を失っている間のことは、本人にはわかりません。
そのため診察では、実際に倒れるところを見ていた家族や周囲の人からの情報が非常に重要になります。
特に確認したいのは、
- 突然倒れたのか
- 呼びかけに反応していたか
- どのくらい意識を失っていたか
- 手足のけいれんがなかったか
- 身体が硬くなるような様子がなかったか
- 舌を噛んでいなかったか
- 尿失禁がなかったか
- 顔色はどうだったか
- 意識が戻ったあと、すぐにいつも通りになったか
- しばらくぼーっとしたり、受け答えがおかしかったりしなかったか
といった点です。
また、家族が一緒にいる場合には、これまでにも同じようなことがなかったか、以前はどのような状況で起きていたのかなど、これまでの経過を聞くことも大切です。
本人の話だけではなく、本人・家族・目撃者それぞれから得られる情報を合わせて、意識消失の原因を考えていきます。
学校で倒れた場合には、先生や友人など実際にその場を見ていた人から、倒れていたときの様子を確認できると診断の助けになります。
「貧血でしょうか?」と受診する人も多い
失神や立ちくらみがあると、
「貧血で倒れたのでは?」
と思う方はとても多くいます。
実際に外来でも、「貧血だと思うので調べてほしい」と受診される方は少なくありません。
しかし、一般に医学的な「貧血」とは、血液中のヘモグロビンが少なくなっている状態を指します。
貧血が強い場合には、
- 疲れやすい
- 息切れがする
- 動悸がする
- 顔色が悪い
- めまいや立ちくらみがする
などの症状がみられます。
一方、迷走神経反射では血液そのものが不足しているわけではなく、一時的に血圧や脈拍が変化して脳への血流が低下することで失神します。
そのため、
「倒れた=貧血」ではありません。
必要に応じて血液検査を行えば、実際に貧血があるかどうかを確認できます。
倒れそうになったら「しゃがむ・頭を低くする」
迷走神経反射では、前兆に気づいたときの行動がとても大切です。
「気持ちが悪い」
「冷や汗が出てきた」
「目の前が暗くなってきた」
と思ったら、我慢して立ち続けないでください。
安全な場所で横になれるのであれば、横になるのもよいでしょう。
しかし、学校や駅、電車の中など、すぐに横になれない場所もあります。
その場合には、
その場ですぐにしゃがみ、頭を低くしてください。
立ったまま我慢することが一番危険です。
しゃがむことで転倒を防ぐことができ、頭を低くすることで脳への血流を保ちやすくなります。
特に学生さんには、
「気持ち悪くなったら我慢しない。すぐしゃがむ」
と覚えておいてほしいポイントです。
壁にもたれかかったまま立ち続けるのではなく、まず転倒しない姿勢をとることが重要です。
迷走神経反射で注意したいのは転倒によるけが
迷走神経反射そのものは、多くの場合、一時的な反応です。
しかし、立ったまま意識を失うと、
- 頭を強く打つ
- 顔をけがする
- 階段から転落する
- 駅のホームなど危険な場所で倒れる
といった事故につながる可能性があります。
そのため、前兆を感じたら「もう少し我慢しよう」と考えず、まず安全な姿勢をとることが大切です。
一度迷走神経反射を経験したことがある方は、自分の前兆を知っておくと、その後の転倒予防にも役立ちます。
迷走神経反射は繰り返すことがある?
迷走神経反射を起こしやすい方では、似たような状況で繰り返すことがあります。
「採血をするといつも気分が悪くなる」
「長時間立っていると倒れそうになる」
という方もいます。
過去に採血や注射で気分が悪くなったことがある場合には、採血前に医療スタッフへ伝えておくことも大切です。
横になった状態で採血するなど、安全に行えるよう配慮してもらえることがあります。
日常生活では、
- 水分をしっかりとる
- 睡眠不足を避ける
- 長時間立ち続けない
- 暑い環境を避ける
- 前兆を感じたらすぐに姿勢を低くする
などを意識しましょう。
迷走神経反射とてんかんはどう違う?
「突然倒れた」「意識を失った」と聞くと、てんかんを心配する方も少なくありません。
迷走神経反射とてんかんでは、意識を失う前・意識を失っている最中・意識が戻ったあとの経過を詳しく確認することが重要です。
迷走神経反射では、冷や汗や吐き気、目の前が暗くなるなどの前兆がみられることが多く、倒れたり横になったりすることで比較的速やかに意識が回復します。
一方、てんかん発作では前兆なく突然意識を失うこともあり、
- 全身のけいれん
- 身体が硬くなる
- 舌を噛む
- 尿失禁
- 意識が戻ったあともしばらくぼーっとする
- すぐには普段通りの受け答えに戻らない
などがみられることがあります。
特に、意識が戻った直後にすぐいつも通りだったのか、それともしばらくぼんやりしていたのかは重要な情報です。
ただし、けいれんしたから必ずてんかん、失禁がなかったからてんかんではない、というように一つの症状だけで判断することはできません。
失神でも、一時的に脳への血流が低下することで手足がけいれんするように動くことがあります。
そのため、倒れているときの様子だけではなく、
「倒れる前 → 意識を失っている最中 → 意識が戻ったあと」
という一連の経過を確認することが、原因を考えるうえで大切です。
てんかんについて詳しくはこちら。
こんな場合は迷走神経反射と自己判断しない
失神の多くは迷走神経反射などによるものですが、なかには注意が必要な失神があります。
特に、
- 何の前兆もなく突然意識を失った
- 運動中に失神した
- 動悸や胸痛を伴った
- 横になっているときに意識を失った
- けいれんを伴った
- 舌を噛んでいた
- 尿失禁があった
- 意識がなかなか戻らなかった
- 意識が戻ったあともしばらくぼーっとしていた
- 同じような意識消失を繰り返している
- ろれつが回らない、手足が動かしにくいなどの症状を伴った
- 心臓病や不整脈を指摘されたことがある
- 失神によって大きなけがをした
といった場合には、迷走神経反射以外の原因についても確認する必要があります。
失神の原因には、迷走神経反射などの反射性失神だけでなく、起立性低血圧、不整脈などによる心原性失神、てんかんなどさまざまなものがあります。
失神・意識を失う原因について詳しくはこちら。
迷走神経反射は何科を受診する?
一度だけ、明らかなきっかけと典型的な前兆があり、すぐに回復した場合には、迷走神経反射が考えやすいこともあります。
一方で、初めて意識を失った場合や、原因がはっきりしない場合には、一度医療機関で相談することをおすすめします。
症状に応じて、
- 内科
- 脳神経内科
- 循環器内科
などで診療します。
特に、動悸や胸痛を伴う場合、運動中に失神した場合、前兆なく突然倒れた場合には、心臓の病気を調べることが重要です。
一方、けいれんを伴った、意識が戻ったあともしばらくぼんやりしていた、同じような意識消失を繰り返しているなど、てんかんとの鑑別が必要な場合には、脳神経内科で評価を行います。
まとめ
迷走神経反射は、若い人や学生さんにもよくみられる失神の原因のひとつです。
長時間立っている、暑い場所にいる、採血や注射を受ける、強い緊張や痛みを感じるなどをきっかけに、血圧や脈拍が変化して一時的に脳への血流が低下することで起こります。
特に大切なのは、倒れる前の前兆を知っておくことです。
冷や汗、吐き気、目の前が暗くなる、気が遠くなるなどを感じたら、我慢して立ち続けず、すぐにしゃがんで頭を低くしてください。
横になれる場所であれば、横になるのもよいでしょう。
また、「倒れた=貧血」とは限りません。
そして失神の原因を調べるときには、本人の記憶だけでなく、倒れているところを見た家族や周囲の人の情報も非常に重要です。
前兆なく突然倒れた、けいれんや舌を噛んだ跡、失禁があった、意識が戻ったあともしばらくぼーっとしていた、運動中に失神した、胸痛や動悸を伴ったなどの場合には、迷走神経反射と自己判断せず医療機関を受診しましょう。
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