風邪や下痢のあとに手足がしびれる・力が入らない|ギラン・バレー症候群とは【脳神経内科専門医が解説】
「風邪が治ったと思ったら、足がしびれてきた」
「下痢をしたあとから、階段が上りにくくなった」
「数日前まで普通に歩けていたのに、だんだん足に力が入らなくなってきた」
このような症状がある場合、**ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)**という末梢神経の病気が隠れていることがあります。
ギラン・バレー症候群は、風邪や胃腸炎などの感染をきっかけに発症することが多く、特に下痢のあとに起こる場合があります。
生や加熱不十分な鶏肉などによるカンピロバクター腸炎がきっかけになることもよく知られています。
大切なのは、単なるしびれだけではなく、
- 足に力が入らない
- 階段が上れない
- 立ち上がりにくい
- 歩きにくい
といった症状が、数日単位で進んでいくことがある点です。
この記事では、ギラン・バレー症候群の初期症状や原因、検査、治療、受診の目安について、脳神経内科専門医がわかりやすく解説します。
ギラン・バレー症候群とは?
ギラン・バレー症候群は、脳や脊髄ではなく、そこから手足などへ伸びている末梢神経が障害される病気です。
多くの場合、感染症に対して作られた免疫が、誤って自分自身の末梢神経まで攻撃してしまうことで起こると考えられています。
その結果、
- 手足のしびれ
- 筋力低下
- 歩きにくさ
- 顔の動かしにくさ
- 飲み込みにくさ
など、さまざまな神経症状が現れます。
風邪や下痢の1〜2週間後に発症することがあります
ギラン・バレー症候群では、神経症状が出る前に、
- 風邪
- 発熱
- のどの痛み
- 咳
- 下痢
- 腹痛
- 胃腸炎
などがみられることがあります。
特に典型的なのが、
感染症にかかる
↓
いったん症状がよくなる
↓
1〜2週間ほどして手足のしびれや筋力低下が出てくる
という経過です。
感染症が治ったあとに症状が出るため、
「風邪で体力が落ちただけかな」
「寝込んでいたから足が弱ったのかな」
と思ってしまうことがあります。
しかし、日に日に筋力低下が強くなっている場合には注意が必要です。
生・加熱不十分な鶏肉のあとにも注意
ギラン・バレー症候群の先行感染として有名なのが、カンピロバクター感染症です。
カンピロバクターは鶏肉などに存在することがあり、
- 鶏刺し
- 鶏肉の生食
- 加熱が不十分な鶏肉
などを食べたあとに、発熱、腹痛、下痢などの胃腸炎を起こすことがあります。
ただし、鶏肉を食べたこと自体がギラン・バレー症候群の原因になるわけではありません。
カンピロバクターなどによる感染症をきっかけに免疫反応が起こり、その後に末梢神経が障害されることがあります。
また、明らかな風邪や胃腸炎の記憶がなくても発症することはあります。
最初は足のしびれや力の入りにくさから始まることが多い
ギラン・バレー症候群では、
「なんとなく足がおかしい」
という程度から始まることがあります。
たとえば、
- 足先がピリピリする
- 足の裏の感覚がおかしい
- 足が重い
- 階段を上るのがつらい
- 椅子から立ち上がりにくい
- つまずきやすくなった
- 歩くと足が前に出にくい
などです。
症状は両足に出ることが多く、そこから手や腕などへ広がっていくことがあります。
▶︎ 手足に力が入らない原因について詳しくはこちら
▶︎ 手のしびれの原因について詳しくはこちら
「数日前までは普通に歩けていた」が重要なサイン
ギラン・バレー症候群で特に重要なのが、症状の進み方が比較的速いことです。
たとえば、
「数日前までは普通に歩いていた」
「昨日までは階段を上れた」
「今日は手すりがないと上れない」
「さらに翌日には一人で歩きにくくなった」
というように、数日単位で変化することがあります。
神経症状は数日から2週間ほどの間に急速に進み、発症後2〜4週間ほどでピークになることがあります。
慢性的な腰痛や加齢による筋力低下とは、経過が大きく異なります。
▶︎ 歩きにくい・ふらつく原因について詳しくはこちら
顔や目、飲み込みにも症状が出ることがあります
ギラン・バレー症候群は、手足だけの病気ではありません。
顔や目、のどを動かす神経にも障害が及ぶことがあります。
顔が動かしにくい
顔面神経が障害されると、
- 口元が動かしにくい
- 笑ったときに顔が動きにくい
- 目をしっかり閉じられない
などの症状が出ることがあります。
片側だけではなく、両側の顔面神経麻痺を起こすことがあるのも特徴です。
ものが二重に見える
目を動かす神経が障害されると、眼球をうまく動かせなくなり、ものが二重に見えることがあります。
▶︎ ものが二重に見える原因について詳しくはこちら
飲み込みにくい・むせる
のどの筋肉を動かす神経が障害されると、
- 水でむせる
- 食べ物を飲み込みにくい
- 唾液を飲み込みにくい
- 声が弱くなる
- ろれつが回りにくい
などの症状が現れることがあります。
▶︎ ろれつが回らない原因について詳しくはこちら
息苦しくなくても「咳が弱い・痰を出しにくい」場合は注意
ギラン・バレー症候群では、重症になると呼吸に必要な筋肉にも力が入りにくくなることがあります。
呼吸筋が弱くなったとき、
「息苦しい」
という症状だけが出るとは限りません。
注意したいのは、
- 咳をしても勢いがない
- 大きな咳ができない
- 痰がうまく切れない
- 痰を自分で出せなくなってきた
- 声が小さく弱くなった
- 横になると息苦しい
- 長く話し続けられない
- 息を深く吸いにくい
といった変化です。
咳をするためにも呼吸筋の力が必要です。
呼吸筋が弱くなると、痰を外へ押し出す力も弱くなります。
また、飲み込みの障害が加わると、唾液や食べ物が気管に入り、誤嚥する危険も高くなります。
「息苦しくないから大丈夫」とは限りません。
咳が急に弱くなった、痰が出せなくなった、むせが強くなったという場合にも早急な評価が必要です。
脈や血圧が大きく変動することもあります
ギラン・バレー症候群では、手足を動かす神経だけでなく、体を自動的に調節している自律神経が障害されることがあります。
たとえば、
- 脈が急に速くなる
- 脈が遅くなる
- 血圧が急に高くなる
- 血圧が急に下がる
- 立ち上がったときに血圧が下がる
などが起こることがあります。
ここでいう自律神経障害は、一般に使われる「自律神経失調症」とは少し意味が異なります。
ギラン・バレー症候群では、末梢神経そのものの障害によって、心拍や血圧を調節する神経がうまく働かなくなることがあります。
そのため、重症例では心電図や血圧を継続的に確認しながら管理することがあります。
フィッシャー症候群とは?
ギラン・バレー症候群と非常に関連の深い病気に、**フィッシャー症候群(Miller Fisher syndrome)**があります。
代表的な症状は、
- ものが二重に見える
- 目が動かしにくい
- ふらつく
- まっすぐ歩けない
- 腱反射が弱くなる
などです。
典型的なギラン・バレー症候群のような強い手足の筋力低下が目立たないこともあります。
そのため、
「手足には力が入るのに、急にものが二重に見えて歩けない」
という形で発症することがあります。
ただし、手足の麻痺が目立たない=軽い病気という意味ではありません。
強いふらつきによって一人では歩けないこともあり、ギラン・バレー症候群へ連続するような症状を示す場合もあります。
▶︎ 複視について詳しくはこちら
ギラン・バレー症候群はどうやって診断する?
ギラン・バレー症候群が疑われる場合、まず重要なのは症状の経過です。
特に、
風邪や胃腸炎のあと
↓
手足のしびれや筋力低下
↓
数日単位で症状が進行
という経過は重要な手がかりになります。
診察では、手足の筋力や感覚のほか、腱反射などを確認します。
必要に応じて、
神経伝導検査
末梢神経に電気刺激を加え、神経から信号がどのように伝わっているかを調べます。
ギラン・バレー症候群の診断では非常に重要な検査です。
髄液検査
腰から細い針を入れて脳脊髄液を採取します。
ギラン・バレー症候群では、髄液中の細胞数がそれほど増えていないのに、蛋白が高くなる「蛋白細胞解離」と呼ばれる変化がみられることがあります。
ただし、発症直後にはまだ異常がはっきりしないこともあります。
血液検査
抗糖脂質抗体などを調べることがあります。
また、感染症やほかの病気が隠れていないかを確認するための血液検査も行います。
ギラン・バレー症候群の治療
症状が進行している場合には、入院して治療を行います。
代表的な治療は、
免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)
免疫グロブリンという血液中の成分を点滴する治療です。
異常な免疫反応を調節し、神経への攻撃を抑える目的で行います。
血漿交換療法
血液の液体成分である血漿を交換することで、神経を攻撃する抗体などを取り除く治療です。
どちらを行うかは、症状や重症度、全身状態などを考えて決めます。
また、
- 呼吸状態の管理
- 飲み込みの評価
- 不整脈や血圧変動への対応
- 血栓予防
- リハビリテーション
なども非常に重要です。
ギラン・バレー症候群は治る?
ギラン・バレー症候群は、症状が進行したあとに徐々に回復していくことが多い病気です。
ただし、神経の回復には時間がかかります。
数週間でかなり改善する人もいれば、数か月かけて少しずつ筋力が戻ってくる人もいます。
多くの人は半年ほどの間に大きく改善していきますが、
- 手足のしびれ
- 筋力低下
- 疲れやすさ
- 歩きにくさ
などが長く残る場合もあります。
重症の場合には長期間のリハビリテーションが必要になることもあります。
「治療をしたら翌日から元通り」という病気ではなく、神経の回復を待ちながら少しずつ動ける範囲を広げていくイメージです。
重症筋無力症とはどう違う?
ギラン・バレー症候群と同じように、
- 力が入らない
- 飲み込みにくい
- ものが二重に見える
- 息苦しい
などの症状を起こす病気に重症筋無力症があります。
しかし、症状の出方には違いがあります。
ギラン・バレー症候群では、
感染後に発症し、数日単位で筋力低下が広がっていく
ことが特徴です。
一方、重症筋無力症では、
筋肉を使っているとだんだん力が続かなくなり、休むと改善する
という「易疲労性」が特徴です。
▶︎ 重症筋無力症について詳しくはこちら
こんな症状があれば早めに医療機関へ
風邪や胃腸炎のあとに、
- 手足に力が入りにくくなった
- 数日で歩きにくさが悪化している
- 階段を上れなくなった
- 一人で立てない、歩けない
- 顔が動かしにくい
- ものが二重に見える
- 飲み込みにくい
- むせる
- 声が弱くなった
- 咳が弱くなった
- 痰を自分で出しにくい
- 息苦しい
といった症状がある場合には、早めに受診してください。
特に、
歩けなくなってきた
飲み込めない
咳が弱く痰を出せない
呼吸が苦しい
という場合には、通常の外来予約を待たず、救急受診を考える必要があります。
何科を受診すればいい?
ギラン・バレー症候群を専門的に診断・治療するのは脳神経内科です。
ただし、症状が急速に進んでいる場合には、最初から脳神経内科の外来を探す必要はありません。
歩けない、飲み込めない、呼吸がおかしいなどの症状がある場合には、救急外来を受診してください。
救急外来でギラン・バレー症候群が疑われれば、脳神経内科で詳しい検査や治療につながります。
▶︎ 脳神経内科ではどんな症状を診る?詳しくはこちら
まとめ
ギラン・バレー症候群は、風邪や胃腸炎などの感染のあとに発症することがある末梢神経の病気です。
特に、
風邪や下痢のあとに、手足がしびれる・力が入らない
という症状が現れた場合には注意が必要です。
加熱不十分な鶏肉などによるカンピロバクター腸炎がきっかけになることもあります。
ギラン・バレー症候群の大きな特徴は、数日から数週間という比較的短い期間に症状が進行することです。
最初は軽い足のしびれや階段の上りにくさだけでも、徐々に手足へ広がったり、顔、飲み込み、呼吸に関わる神経まで障害されたりすることがあります。
また、呼吸筋が弱くなっても、最初から強い息苦しさが出るとは限りません。
咳が弱い、痰を出しにくい、むせる、声が弱くなった
といった症状も見逃さないことが大切です。
「風邪が治ったばかりだから」
「胃腸炎で体力が落ちただけだろう」
と様子をみず、筋力低下が進んでいる場合には早めに医療機関を受診してください。
