筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは?初期症状・原因・検査について【神経内科専門医が解説】
「最近、手に力が入りにくい…」
「筋肉がピクピクするけどALSではないか心配…」
「ろれつが回りにくくなってきた…」
このような症状があると、インターネットで調べて「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という病気を知り、不安になる方も少なくありません。
ALSは運動神経が徐々に障害される病気ですが、実際にはALSではなく、頸椎症など治療できる別の病気であることも多くあります。
この記事では、ALSの初期症状や検査、似た病気との違いについて、神経内科専門医がわかりやすく解説します。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?
ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)は、手足やのどの筋肉を動かす運動神経(運動ニューロン)が徐々に障害される神経の病気です。
筋力低下や筋肉のやせ(筋萎縮)が少しずつ進行していきます。
一方で、
- しびれ
- 強い痛み
- 感覚がなくなる
といった感覚障害は基本的にはみられません。
そのため、「手足がしびれる」「強い痛みが続く」という症状が中心であれば、ALS以外の病気が考えられることが多いです。
ただし、筋力低下が進むことで肩や腰などに痛みを感じることはあります。
ALSは50〜70歳代で発症することが多い病気ですが、若い方で発症することもあります。
また、多くは原因不明ですが、日本では国の指定難病となっています。
ALSの初期症状
ALSは体の中心よりも手足の先(遠位筋)から始まることが多いのが特徴です。
手から始まるタイプ
最も多いタイプです。
このような症状から始まります。
- ペットボトルのふたが開けにくい
- ボタンを留めにくい
- 箸が使いづらい
- 鍵を回しにくい
- 字が書きにくい
さらに、
- 親指の付け根(母指球)
- 親指と人差し指の間の筋肉(第一背側骨間筋)
がやせてくることがあります。

ただし、このような手の筋肉のやせ方は頸椎症でもみられることがあり、両方を合併している方も少なくありません。
そのため、自己判断だけでALSと決めつけることはできません。
足から始まるタイプ
足から始まる方では、
- スリッパが脱げやすい
- つま先が引っかかる
- 足首が上がりにくい
- 転びやすくなった
- 階段が上りにくい
などが初期症状になります。
歩き方がおかしいと言われて受診される方も少なくありません。
ろれつや飲み込みから始まるタイプ(球麻痺型)
手足よりも先に、
- ろれつが回らない
- 声がかすれる
- 飲み込みにくい
- むせやすい
などで始まることもあります。
さらに、
- 舌がやせる
- 舌がピクピク動く(線維束性収縮)
こともALSでは特徴的です。

また、まだ若いのに誤嚥性肺炎を繰り返すような場合には、飲み込みの障害が隠れていないか注意が必要です。
ALSでみられる主な症状
ALSでは次のような症状がみられます。
- 筋力低下
- 筋肉がやせる(筋萎縮)
- 筋肉のピクつき(線維束性収縮)
- 手足がつっぱる感じ
- ろれつ障害
- 飲み込みにくい
- 呼吸する筋肉が弱くなる
一方で、
- 強いしびれ
- 強い痛み
- 排尿・排便の異常
などはALSでは比較的少なく、これらが主症状の場合は別の病気も考えます。
筋肉がピクピクするだけではALSではありません
「筋肉がピクピクするのでALSでしょうか?」
これは神経内科外来で非常によく受ける質問です。
実際には、筋肉のピクつきだけでALSと診断されることはほとんどありません。
ALSでは、筋力が低下している筋肉に線維束性収縮がみられることが多いのが特徴です。
一方で、
- 疲労
- ストレス
- 睡眠不足
- カフェイン
などでも筋肉のピクつきは起こります。
筋力低下や筋萎縮を伴わない筋肉のピクつきだけであれば、良性のことが多いため、過度に心配する必要はありません。

原因
ALSの原因は、現在でも完全には解明されていません。
約90〜95%は原因不明の孤発性ALSであり、約5〜10%では遺伝子の異常による家族性ALSが知られています。
日本では指定難病に認定されており、医療費助成の対象となる病気です。
検査
ALSには、「この検査だけで診断できる」という検査はありません。
症状や診察所見、さまざまな検査結果を総合して診断します。
主な検査には、
- 神経学的診察
- 針筋電図検査(最も重要な検査)
- 神経伝導検査
- 血液検査
- 脳・頸椎MRI
- 必要に応じて髄液検査
などがあります。
特に針筋電図検査はALSの診断に非常に重要であり、筋肉や運動神経の障害がないかを詳しく調べます。
また、MRIなどを行い、頸椎症などALSと似た症状を起こす病気が隠れていないかを確認することも大切です。
ALSの治療
現在のところ、ALSを完全に治す治療法はありません。
しかし、近年は病気の進行を緩やかにする治療薬が開発されており、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療が行われています。
治療には、
- 病気の進行を抑える薬
- リハビリテーション
- 栄養管理
- 呼吸管理
- 言語療法
- 多職種によるサポート
などを組み合わせて行います。
どの治療を選択するかは、
- 症状の進行具合
- 年齢
- 通院が可能か
- ご本人やご家族の希望
などによって異なります。
ALSと診断された場合は、主治医と相談しながら、その時期に最も適した治療を選択していくことが大切です。
ALSと間違えやすい病気
ALSと似た症状でも、治療できる病気が見つかることは少なくありません。
代表的な病気には、
- 頸椎症
- 重症筋無力症
- 多発性硬化症
- 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)
- 筋炎
- 末梢神経障害
などがあります。
特に頸椎症はALSと症状が似ていることが多く、手の筋力低下や筋肉のやせがみられることがあります。
また、ALSと頸椎症を合併している方も少なくありません。
そのため、神経学的診察や筋電図検査、MRIなどを組み合わせて慎重に診断することが重要です。
このような症状があれば脳神経内科を受診しましょう
次のような症状が続く場合は、一度脳神経内科を受診することをおすすめします。
- 手足の筋力低下が続く
- 手の筋肉がやせてきた
- ペットボトルのふたが開けにくくなった
- スリッパが脱げやすい、つまずきやすい
- ろれつが回りにくい
- 飲み込みにくい、むせやすい
- 声がかすれてきた
- 原因不明で体重が減ってきた
一方で、筋肉がピクピクするだけで筋力低下や筋肉のやせがない場合は、ALSではないことがほとんどです。
過度に心配せず、症状が続くようであれば一度相談してみましょう。
まとめ
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、運動神経が徐々に障害される指定難病です。
初期には、
- 手足の先の筋力低下
- 筋肉のやせ
- ろれつ障害
- 飲み込みにくさ
などがみられます。
一方で、強いしびれや強い痛み、排尿・排便障害はALSではあまりみられず、別の病気が原因であることも少なくありません。
また、「筋肉がピクピクする=ALS」ではなく、疲労やストレスなどによる良性の筋肉のピクつきであることも多くあります。
実際にALSを心配して受診される方の多くは、ALS以外の病気であることがほとんどです。
気になる症状が続く場合は、一人で悩まず、早めに脳神経内科を受診して適切な診断を受けましょう。
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