朝起きた瞬間・寝返りでめまいがする|良性発作性頭位めまい症(BPPV)の原因と治し方【神経内科専門医が解説】
「朝、ベッドから起き上がった瞬間に天井がぐるぐる回った」
「寝返りを打つたびにめまいがする」
「上を向いたり、下を向いたりすると突然めまいが起こる」
このような症状で外来を受診される方はとても多くいます。
その代表的な原因が、**良性発作性頭位めまい症(BPPV)**です。
名前は少し難しいですが、耳の奥にある「耳石」がずれることで起こる、とてもよくあるめまいです。
症状はかなり激しいこともあり、
「脳の病気では?」
「このまま治らなかったらどうしよう」
と不安になる方も少なくありません。
しかし、典型的なBPPVは命にかかわる病気ではなく、自然に改善したり、耳石を戻す治療によってよくなることが多い病気です。
この記事では、BPPVの症状や原因、治療、日常生活で気をつけることについて、できるだけわかりやすく解説します。
BPPVで最も多いのは「朝起きた瞬間のめまい」
BPPVでは、頭の位置を変えたときに突然ぐるぐる回るめまいが起こります。
特によく聞くのが、
- 朝、ベッドから起き上がった瞬間
- 寝返りを打ったとき
- 布団に横になったとき
- 上を向いたとき
- 下を向いたとき
- 洗髪するとき
- 美容院で頭を倒したとき
などです。
「朝起きたら突然ぐるぐる回って、怖くなって救急車を呼んだ」
という方も珍しくありません。
ただしBPPVの場合、めまいそのものは数十秒〜1分程度でおさまることが多く、頭を動かさずじっとしていると楽になるのが特徴です。
吐き気が強く、実際に吐いてしまうこともあります。
BPPVとは?耳石がずれて起こるめまいです
耳の奥には、体の傾きや動きを感じ取る「内耳」という部分があります。
その中にある小さな石のようなものが耳石です。
何らかのきっかけで耳石がはがれ、三半規管の中に入り込むと、頭を動かしたときに耳石も動きます。
すると実際の頭の動き以上に「体が動いている」という信号が脳へ送られ、
ぐるぐる回るような強いめまい
を感じます。
これがBPPVです。
40〜50代ごろから増え、年齢とともに起こりやすくなります
BPPVは若い方にも起こりますが、40〜50代ごろからよくみられるようになり、年齢とともに増えていきます。
特に中高年以降では珍しい病気ではありません。
「今までめまいなんて一度もなかったのに、50歳になって突然めまいが出た」
という場合でも、それだけで重大な病気というわけではありません。
年齢とともに耳石がはがれやすくなることなどが関係していると考えられています。
一度治っても繰り返すことがあります
BPPVは、再発することが比較的多い病気です。
一度よくなっても、
「半年後にまた朝起きたらぐるぐるした」
「数年おきに同じめまいを繰り返している」
という方もいます。
再発したからといって、病気がどんどん悪化しているという意味ではありません。
以前と同じように、
- 寝返りで起こる
- 起き上がると起こる
- 数十秒程度でおさまる
という典型的な症状であれば、BPPVが再発している可能性があります。
「またなった」と必要以上に怖がりすぎないことも大切です。
ただし、以前とは全く違う症状がある場合には、ほかの病気がないか確認が必要です。
転倒や交通事故のあとに起こることもあります
BPPVには、はっきりした原因がわからないものも多いのですが、
- 転倒して頭をぶつけた
- 交通事故にあった
- 頭部を強く打った
などのあとに発症することがあります。
頭への衝撃をきっかけに耳石がはがれ、三半規管へ入り込むためと考えられています。
「転んでから、寝返りをするとめまいがするようになった」
「事故のあとから、朝起きるとぐるぐるする」
という場合には、BPPVが関係していることがあります。
疲れているときや体力が落ちていると、めまいを強く感じることも
「仕事が忙しかったあとにめまいが出た」
「体調を崩して寝込んだあとから、ふらつくようになった」
という方もいます。
疲労や体力低下そのものがBPPVの直接的な原因とは限りません。
ただ、疲れていたり睡眠不足だったり、病気のあとで体力が落ちていたりすると、めまいやふらつきを強く感じることがあります。
また、長く寝て過ごしていると、バランスを保つための機能も低下しやすくなります。
BPPVが治ったあとも、
「ぐるぐるはしなくなったけれど、なんとなくふわふわする」
「歩くとまだ不安定な感じがする」
という症状が残る方もいます。
「耳石は戻ったのにふわふわする」こともあります
BPPVでは、激しい回転性めまいが治ったあとにも、しばらく
- ふわふわする
- 頭を動かすと違和感がある
- 歩くと少し不安定
- 人混みやスーパーでふらつく感じがする
といった症状が残ることがあります。
これは珍しいことではありません。
耳石による強いめまいが改善しても、脳や耳のバランス機能がまだ完全に元へ戻っていないことがあります。
また、年齢や体力低下などによって前庭機能そのものが低下している場合には、回復に少し時間がかかることもあります。
このような場合には、必要以上に安静にするよりも、少しずつ普段の生活へ戻していくことが大切です。
BPPVは寝てばかりでは治りにくくなります
めまいがすると、
「動いたらまた回りそう」
と怖くなり、一日中ベッドで寝て過ごしたくなるかもしれません。
しかし、必要以上に安静にし続けることはおすすめしません。
転倒に注意しながら、
- 朝起きる
- 食事をする
- 家の中を歩く
- 普段の家事をする
- 少しずつ外出する
など、できる範囲で普段通りの生活をしていきましょう。
頭や体を適度に動かすことで、バランスを保つ機能も回復していきます。
特に高齢の方では、数日間寝ているだけでも筋力や体力が落ち、かえってふらつきや転倒につながることがあります。
「めまいがあるから一日中寝ている」のではなく、転倒に気をつけながら、できる範囲で体を動かすことが大切です。
もちろん、めまいが激しく一人では安全に歩けない場合に、無理をして歩く必要はありません。
BPPVの治療は「耳石を戻す」ことが基本です
BPPVの代表的な治療が、耳石置換法です。
頭や体を決められた順番で動かし、三半規管に入り込んだ耳石を元の場所へ戻していきます。
代表的なものにEpley(エプリー)法があります。
ただし、BPPVには耳石が入り込んでいる場所によっていくつか種類があります。
すべてのBPPVに同じ体操をすればよいわけではありません。
症状が続く場合には、耳鼻咽喉科などで診断してもらうとよいでしょう。
めまい止めを飲んでも、耳石が戻るわけではありません
BPPVでは「めまい止め」が処方されることもよくあります。
吐き気などを一時的に軽くする目的では使用されることがありますが、一般的なめまい止めを飲んだからといって、ずれた耳石が元の位置へ戻るわけではありません。
そのため、BPPVではめまい止めだけを漫然と飲み続けるよりも、
- 正しくBPPVと診断する
- 必要に応じて耳石置換法を行う
- 普段通りの生活へ戻していく
ことの方が大切です。
五苓散がめまいの症状に役立つこともあります
めまいの治療では、漢方薬の**五苓散(ごれいさん)**を使用することもあります。
私の外来でも、BPPVやその後に残るふらつきに五苓散を使い、症状が楽になる患者さんがいます。
ただし、五苓散を飲めば耳石が直接元の位置に戻るというわけではありません。
BPPVそのものに対する治療の基本は、必要に応じた耳石置換法と日常生活を取り戻していくことです。
五苓散は、症状を和らげるための選択肢の一つと考えるとよいでしょう。
「めまいだから点滴」は必要とは限りません
めまいで病院を受診すると、**メイロン(炭酸水素ナトリウム)**という点滴が行われることがあります。
日本では以前からめまいに使用されてきた薬ですが、BPPVの耳石を元に戻して治す治療ではありません。
そのため、
「めまいがあるから毎日メイロンを点滴する」
という治療を漫然と続ける必要があるとは限りません。
特に高齢者や、
- 心不全がある
- 腎機能が低下している
- むくみやすい
といった方では注意が必要です。
炭酸水素ナトリウム製剤にはナトリウムが多く含まれるため、安易な点滴による水分・ナトリウム負荷には注意しなければなりません。
もちろん、激しい嘔吐があり脱水になっている場合など、点滴が必要なこともあります。
大切なのは、「めまい=とりあえず点滴」ではなく、まずめまいの原因を確認することです。
BPPVはかなり激しくても、怖い病気とは限りません
BPPVのめまいは非常に激しいことがあります。
突然天井が回り、
「こんなにひどいめまいなら脳梗塞では?」
と心配になる方もいます。
しかし、めまいの強さと病気の重症度は必ずしも一致しません。
BPPVでは激しくぐるぐる回って吐いてしまうほどでも、頭を動かさずにいると比較的落ち着き、その後普通に歩けることがあります。
典型的なBPPVであれば、必要以上に怖がる必要はありません。
ただし、すべてのめまいがBPPVというわけではありません。
こんな症状がある場合は「BPPVだろう」と自己判断しないで
次のような症状がある場合には、脳幹や小脳の脳梗塞など、ほかの病気を考える必要があります。
- 頭を動かさなくても強いめまいが続く
- めまいが何時間も続いている
- 支えなしでは立てない
- まっすぐ歩けない
- ろれつが回らない
- 物が二重に見える
- 顔や手足がしびれる
- 手足に力が入らない
- 突然の激しい頭痛がある
- 突然の強い首や後頭部の痛みがある
- 意識がおかしい
特に、
「突然のめまい+歩けない」
という場合には注意が必要です。
▶︎ めまい全体の原因と危険なめまいについて詳しくはこちら
▶︎ 歩きにくい・ふらつく原因について詳しくはこちら
BPPVは何科を受診すればいい?
典型的なBPPVが疑われる場合には、まず耳鼻咽喉科が受診しやすいでしょう。
一方で、
- 強い歩行障害がある
- ろれつが回らない
- 物が二重に見える
- 手足のしびれや脱力がある
- BPPVなのか判断できない
という場合には、救急外来や脳神経内科、脳神経外科での評価が必要になることがあります。
まとめ
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、めまいの原因として非常によくみられる病気です。
特に、
- 朝ベッドから起き上がった瞬間
- 寝返り
- 上を向いたとき
- 下を向いたとき
に、数十秒ほどぐるぐる回るめまいが起こるのが典型的です。
40〜50代ごろからよくみられるようになり、年齢とともに増えていきます。
また、一度治っても再発することがあります。
BPPVでは、
「まためまいが出た=重大な病気になった」
というわけではありません。
症状が激しくてもBPPVであることは多いため、必要以上に怖がらないことも大切です。
そして、めまいが怖いからと寝てばかりにせず、転倒に注意しながら、できる範囲で普段通りの生活へ戻していきましょう。
一般的なめまい止めや点滴だけで耳石が元に戻るわけではありません。
症状が続く場合には、正しく診断し、必要に応じて耳石置換法などの治療を受けることが大切です。
ただし、
歩けない・ろれつが回らない・物が二重に見える・手足のしびれや脱力がある
といった場合には、BPPVと自己判断せず早めに医療機関を受診してください。
