脳梗塞の前兆とは?一時的なしびれ・ろれつ障害はTIAかも【神経内科専門医が解説】
「急に片手がしびれたけれど、しばらくしたら治った」
「突然ろれつが回らなくなったけれど、数分で元に戻った」
このような症状を「治ったから大丈夫」と考えてしまう方は少なくありません。
しかし、一時的なしびれや脱力、ろれつの回りにくさなどが、脳梗塞の重要な警告サインであることがあります。
特に注意したいのが、**TIA(一過性脳虚血発作)**です。
TIAでは脳梗塞とよく似た症状が一時的に現れ、その後症状が消失します。
ただし、すべての脳梗塞に前兆があるわけではありません。脳梗塞は何の前触れもなく突然発症することも多い病気です。
この記事では、
- 脳梗塞の前兆として注意したい症状
- TIAとはどのような状態なのか
- めまいや頭痛は脳梗塞の前兆になるのか
- すぐに救急車を呼ぶべき症状
- 何科を受診すればよいのか
について、神経内科専門医がわかりやすく解説します。
脳梗塞の前兆「TIA(一過性脳虚血発作)」とは?
TIA(Transient Ischemic Attack:一過性脳虚血発作)は、脳や網膜への血流が一時的に悪くなることで起こる発作です。
脳梗塞と同じように、
- 片側の手足が動かしにくい
- 顔や手足がしびれる
- ろれつが回らない
- 言葉が出てこない
- 片目が見えなくなる
などの症状が突然現れます。
症状は数分から数十分程度で改善することが多く、長くても24時間以内に消失します。
現在、TIAは症状が24時間以内に消失し、画像検査などで急性脳梗塞の所見を認めないものと定義されています。
MRIなどで新しい脳梗塞が確認された場合には、症状がすでに改善していても脳梗塞と診断されることがあります。
大切なのは、
「症状が消えた=治った」ではない
ということです。
TIAは、その後に脳梗塞を起こす可能性がある重要な警告サインです。
こんな症状は脳梗塞の前兆かもしれません
脳梗塞やTIAでは、症状が突然現れることが大きな特徴です。
特に次のような症状に注意してください。
片側の顔や手足がしびれる
突然、
- 顔の片側がしびれる
- 片腕がしびれる
- 片足の感覚がおかしい
- 顔と手が同時にしびれる
といった症状が現れることがあります。
脳梗塞では、体の左右どちらか一方に症状が出ることが多いのが特徴です。
ただし、症状の出方は脳梗塞の場所によって異なり、手だけ、顔だけなど限られた範囲のしびれで発症することもあります。
▶︎ 手のしびれについて詳しくはこちら
▶︎ 顔のしびれについて詳しくはこちら
片側の手足に力が入らない
突然、
- コップを落とす
- 箸がうまく使えない
- 片腕が上がらない
- 片足に力が入らない
- 足を引きずる
- 急に歩きにくくなる
といった症状が出ることがあります。
「少し手が使いにくかったけれど治った」という程度でも、TIAの可能性があります。
一時的に改善した場合でも注意が必要です。
▶︎ 手足に力が入らない原因について詳しくはこちら
ろれつが回らない
脳梗塞では、
- 言葉がはっきりしない
- 発音がおかしい
- 舌がもつれる感じがする
- 家族に「何を言っているかわからない」と言われる
といった症状が現れることがあります。
本人よりも周囲の人が先に気付くこともあります。
突然ろれつが回らなくなった場合には、脳卒中を考える重要な症状です。
▶︎ ろれつが回らない原因について詳しくはこちら
言葉が出てこない・話が理解できない
単にろれつが回らないだけではなく、
- 言いたい言葉が出てこない
- 名前が出てこない
- 質問にうまく答えられない
- 相手の話している内容が理解できない
- 会話が成立しない
といった症状が出ることがあります。
これは「失語」と呼ばれる症状で、脳梗塞でみられる重要な神経症状の一つです。
急に言葉が出なくなった場合には、認知症などと考えて様子をみるのではなく、脳卒中を疑う必要があります。
片目が突然見えなくなる
片方の目だけが突然見えにくくなったり、見えなくなったりすることがあります。
患者さんによっては、
「黒いカーテンが下りてきたようだった」
「片目だけ急に真っ暗になった」
と表現することがあります。
数分程度で元に戻ることもありますが、これは一過性黒内障と呼ばれ、頸動脈などの血流障害によって起こることがあります。
症状が改善していても、脳梗塞の警告サインとして注意が必要です。
物が突然二重に見える
突然、
- 物が二重に見える
- 焦点が合わない
- 目の位置がおかしい感じがする
といった症状が出ることがあります。
脳幹などの血流障害で、目を動かす神経の働きに異常が起こることで出現します。
複視に加えて、
- ろれつが回らない
- 手足がしびれる
- 強くふらつく
などの症状がある場合には特に注意が必要です。
▶︎ 物が二重に見える原因について詳しくはこちら
突然ふらついて歩けない
脳梗塞というと「手足の麻痺」をイメージする方が多いかもしれません。
しかし、小脳や脳幹に脳梗塞が起こると、
- まっすぐ歩けない
- 急にふらつく
- 立っていられない
- 体が一方向へ傾く
- 手足は動くのに歩けない
といった症状が出ることがあります。
特に、それまで普通に歩いていた人が突然歩けなくなった場合には注意が必要です。
▶︎ 歩きにくい・ふらつく原因について詳しくはこちら
めまいだけでも脳梗塞のことはある?
めまいは非常によくある症状です。
実際には、めまいの多くは良性発作性頭位めまい症(BPPV)など、耳が原因で起こります。
ただし、小脳や脳幹の脳梗塞でも強いめまいが起こることがあります。
特に、
- 突然激しいめまいが始まった
- 立っていられない
- 支えがないと歩けない
- ろれつが回らない
- 顔や手足がしびれる
- 手足に力が入らない
- 物が二重に見える
- いつものめまいと明らかに違う
といった場合には注意が必要です。
「めまいだけだから脳梗塞ではない」と自己判断することはできません。
突然発症した強いめまいや、歩けないほどのふらつきがある場合には、早めに医療機関を受診してください。
▶︎ 危険なめまいの見分け方について詳しくはこちら
頭痛は脳梗塞の前兆になる?
頭痛だけで脳梗塞が見つかることは多くありません。
むしろ、突然の非常に激しい頭痛では、
- くも膜下出血
- 脳出血
などの脳卒中を考える必要があります。
ただし、
- 頭痛と同時に手足が動かしにくくなった
- ろれつが回らない
- 視野がおかしい
- ふらついて歩けない
などの神経症状を伴っている場合には、脳血管障害の可能性があります。
また、比較的若い方で、
突然の首の痛みや後頭部痛のあとに神経症状が出た場合
には、頸動脈解離や椎骨動脈解離にも注意が必要です。
▶︎ 頸動脈解離について詳しくはこちら
▶︎ 椎骨動脈解離について詳しくはこちら
若い人でも脳梗塞になる?
脳梗塞は高齢者に多い病気ですが、若い方にも起こることがあります。
若年者の脳梗塞では、動脈硬化以外にもさまざまな原因があります。
その一つが頸動脈解離や椎骨動脈解離です。
首を通って脳へ血液を送っている動脈の壁が裂け、血管が狭くなったり血栓ができたりすることで、脳梗塞を起こすことがあります。
特に、
- 突然の首の痛み
- 今まで経験したことのない後頭部痛
- 片側の頭痛
- その後にめまい、ふらつき、しびれ、脱力が出た
といった場合には注意が必要です。
年齢が若いという理由だけで、脳卒中を否定することはできません。
脳梗塞に特に注意したい人
脳梗塞は誰にでも起こる可能性がありますが、特に次のような方ではリスクが高くなります。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
- 心房細動
- 過去に脳梗塞やTIAを起こしたことがある
- 頸動脈に動脈硬化がある
中でも心房細動は重要な脳梗塞の原因です。
心房細動があると心臓の中に血栓ができ、その血栓が脳の血管へ飛ぶことで脳梗塞を起こすことがあります。
また、これらのリスクがない方でも脳梗塞を起こすことはあります。
突然の神経症状が出た場合には、「血圧も正常だから大丈夫」「若いから大丈夫」と考えず、症状そのものから判断することが重要です。
TIAのあと脳梗塞になることがある
TIAで最も重要なのは、その後に脳梗塞を起こす危険性があることです。
TIA後の脳卒中リスクは90日以内で10〜20%程度と報告されており、特に発作直後の危険性が高いことが知られています。
脳梗塞を起こす方の多くは、TIAからそれほど時間がたっていない時期に発症します。
そのため、
「症状が治ったから明日まで様子をみよう」
と考えるのはおすすめできません。
TIAが疑われる場合には、
- 脳MRI
- 頭頸部の血管検査
- 心電図
- 血液検査
- 心臓の検査
などを行い、脳梗塞の原因を調べます。
原因によっては抗血小板薬や抗凝固薬などによる治療を早期に開始する必要があります。
脳卒中のサイン「BE-FAST」を覚えておきましょう
脳卒中を早く見つけるために覚えておきたいのが、**BE-FAST(ビー・ファスト)**です。
B:Balance(バランス)
突然、
- ふらつく
- バランスがとれない
- まっすぐ歩けない
E:Eyes(目)
突然、
- 見えにくくなる
- 片目が見えなくなる
- 物が二重に見える
F:Face(顔)
笑ったときに、
- 片側の口角が下がる
- 顔の左右差がある
A:Arm(腕)
両腕を前に上げたときに、
- 片腕が下がってくる
- 片腕が上がらない
S:Speech(言葉)
- ろれつが回らない
- 言葉が出てこない
- 話している内容がおかしい
T:Time(時間)
1つでも突然現れたら、時間をおかずに救急要請を考えてください。
脳梗塞の治療は時間との勝負です。
「もう少し様子をみよう」と待っている間に、治療できる時間を逃してしまうことがあります。
症状が始まった時刻も非常に重要なので、可能であれば**「何時何分から症状が始まったか」**を確認しておきましょう。
症状が消えても救急受診が必要?
ここはとても大切なポイントです。
症状が現在も続いている場合
- 片側の手足が動かない
- 顔がゆがんでいる
- ろれつが回らない
- 言葉が出ない
- 急に歩けなくなった
- 急に見えなくなった
など、脳卒中が疑われる症状が続いている場合には、迷わず119番へ連絡してください。
自分で車を運転して病院へ向かうことは避けましょう。
数分で症状が治った場合
症状が完全に消えていても、TIAの可能性があります。
「治ったから数日様子を見る」のではなく、できるだけ早く医療機関で評価を受けることが重要です。
脳神経内科・脳神経外科のある医療機関や救急外来など、脳卒中の検査が可能な医療機関への受診を検討してください。
症状が消えてしまったあとでは、診察時には異常がみつからないこともあります。
そのため、
- 何時ごろ症状が始まったか
- どのような症状だったか
- 何分くらい続いたか
- 左右どちら側だったか
- 同時にどのような症状があったか
を覚えておくと診断の参考になります。
脳梗塞について詳しく知りたい方へ
脳梗塞には、血管が詰まる原因によっていくつかのタイプがあります。
症状、原因、検査、治療についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎ 脳梗塞について詳しくはこちら
▶︎ 脳血管障害の種類について詳しくはこちら
まとめ
脳梗塞は突然発症することが多く、すべての方に前兆があるわけではありません。
しかし、
- 片側の顔や手足がしびれる
- 片側の手足に力が入らない
- ろれつが回らない
- 言葉が出てこない
- 片目が突然見えなくなる
- 物が二重に見える
- 突然強くふらついて歩けない
といった症状が一時的に現れることがあります。
数分から数十分で症状が消えた場合でも、TIA(一過性脳虚血発作)の可能性があります。
「治ったから大丈夫」ではありません。
特にTIAのあとには脳梗塞を起こす危険性が高いため、症状が改善した場合でも早急な評価が必要です。
また、症状が現在も続いている場合には、時間をおかず救急車を呼んでください。
脳卒中では、早く気付き、早く医療機関につなげることがとても重要です。
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