病気から探す

重症筋無力症とは?特徴的な初期症状と受診の目安【神経内科専門医が解説】

脳と神経の相談室

「夕方になるとまぶたが下がってくる」

「ものが二重に見える」

「話しているうちに鼻声になってくる」

「食事をしていると、だんだん噛むのがつらくなる」

「ドライヤーや歯磨きなど、最初はできるのに途中から腕がだるくなる」

このような症状がある場合、**重症筋無力症(MG:myasthenia gravis)**という病気が隠れていることがあります。

重症筋無力症は、症状が軽い時間帯にはほとんど異常がみられないこともあり、本人も「単なる疲れかな」と思ってしまうことがあります。

この記事では、重症筋無力症でみられる特徴的な症状と、どのような場合に病院を受診したらよいのかを、神経内科専門医がわかりやすく解説します。


重症筋無力症とは?

重症筋無力症は、神経から筋肉へ「動いて」という信号を伝える部分がうまく働かなくなる病気です。

本来、脳や神経から送られた指令は、神経と筋肉のつなぎ目である「神経筋接合部」を通って筋肉へ伝わります。

重症筋無力症では、自分の免疫が誤ってこの部分を攻撃してしまうことで、神経から筋肉への信号が伝わりにくくなります。

そのため、筋肉そのものが壊れているわけではないのに、筋肉を使い続けるとだんだん力が続かなくなるという特徴があります。


重症筋無力症の大きな特徴は「続けているとできなくなる」こと

重症筋無力症で非常に特徴的なのが、最初はできるのに、同じ動作を続けているとだんだんできなくなることです。

たとえば、

  • 最初は普通に目を開けられるのに、夕方になるとまぶたが下がってくる
  • 話し始めは普通なのに、長く話していると声が出しにくくなる
  • 食事の最初は普通に噛めるのに、途中から顎や口の周りがだるくなる
  • 最初は腕を上げられるのに、その状態を保つことができない

といった症状です。

このように、**筋肉を使い続けることで力が入りにくくなることを「易疲労性(いひろうせい)」**といいます。

単に「疲れやすい」というよりも、力を入れ続けることができない、同じ動作を繰り返すとだんだんできなくなるというイメージです。

そして、少し休むと再びできるようになることも重症筋無力症の特徴です。


朝は調子がよく、夕方になると悪くなることも

重症筋無力症では、朝は比較的症状が軽くても、筋肉を使っているうちに症状が強くなり、午後から夕方にかけて調子が悪くなることがあります。

これを医学的には「日内変動」と呼びます。

たとえば朝は普通に目が開いているのに、夕方になるとまぶたが下がってくることがあります。

ただし、すべての人に同じような変化がみられるわけではありません。

大切なのは、症状の強さが一日の中でも変わることがあるという点です。


重症筋無力症ではどんな症状が出る?

① まぶたが下がる

重症筋無力症の代表的な症状のひとつが、**眼瞼下垂(がんけんかすい)**です。

片方のまぶただけが下がることもあれば、両方に症状が出ることもあります。

特徴的なのは、最初は目を開けられていても、時間が経つにつれてまぶたが下がってくることです。

まぶたを上げにくいため、一生懸命目を開けようとして、おでこに強くしわを寄せていることもあります。

「最近、夕方になると目が開けにくい」

「写真を見ると、片方の目が小さくなっている」

ということから気づかれる場合もあります。

▶︎ まぶたが下がる原因について詳しくはこちら


② ものが二重に見える

**ものが二重に見える(複視)**も、重症筋無力症でよくみられる症状です。

朝は問題なくても、夕方や疲れたときに二重に見えやすくなることがあります。

症状が出たり消えたりすることもあるため、病院を受診したときには症状が目立たないこともあります。

▶︎ ものが二重に見える原因について詳しくはこちら


③ 話しているうちに鼻声になる・話しにくくなる

重症筋無力症では、長く話していると徐々に声が変わってくることがあります。

特に特徴的なのが、話しているうちに鼻にかかったような声(鼻声)になってくることです。

最初は普通に話せているのに、会話を続けていると、

  • 鼻声になる
  • 声が弱くなる
  • ろれつが回りにくくなる
  • 話し続けるのがつらくなる

といった変化が出ることがあります。

▶︎ ろれつが回らない原因について詳しくはこちら


④ 食事の途中から噛むのがつらくなる

これは意外と見落とされやすい症状です。

食事を始めたときには普通に噛めていても、噛み続けているうちに顎や口の周りの筋肉がだるくなり、噛むこと自体がつらくなることがあります。

「硬いものを食べていると途中から噛めなくなる」

「食事の後半になると顎が疲れる」

といった症状がある場合には注意が必要です。


⑤ 水が口からこぼれる・表情を作りにくい

口の周りの筋肉に症状が出ることもあります。

たとえば、

  • 水を飲むと口の端からこぼれる
  • 口をしっかり閉じにくい
  • 笑ったときに表情を作りにくい

などです。

本人よりも家族から「最近、笑った顔が少し違う」と指摘されることもあります。


⑥ 飲み込みにくい・むせる

喉の筋肉に症状が出ると、

  • 食べ物を飲み込みにくい
  • 水分でむせる
  • 食事に時間がかかる

といった症状が出ることがあります。

特に、食事を続けているうちに飲み込みにくさが強くなる場合には注意が必要です。


⑦ 腕を上げ続けられない

重症筋無力症では、「腕がまったく上がらない」というよりも、最初はできるけれど、その姿勢や動作を続けられないという症状がみられることがあります。

日常生活では、

  • 歯磨きをしていると腕がだるくなって続けられない
  • シャンプーをしていると腕が下がってくる
  • ドライヤーを持って髪を乾かし続けることができない
  • 高いところで作業を続けられない

といった形で気づくことがあります。

▶︎ 力が入らない原因について詳しくはこちら


⑧ 首を支えているのがつらい

首の筋肉に症状が出ると、頭を上げた状態を保つのがだるくなることがあります。

時間が経つにつれて首を支えることがつらくなり、頭が前に下がってくる場合もあります。


目の症状だけの場合もあります

重症筋無力症という名前から「全身に力が入らなくなる病気」と思われるかもしれません。

しかし、まぶたが下がる、ものが二重に見えるなど、目の症状だけで発症する人もいます。

目の症状だけにとどまっているものを「眼筋型重症筋無力症」と呼びます。

一方、目だけでなく、顔や喉、首、手足などにも症状がみられるものを「全身型重症筋無力症」と呼びます。


重症筋無力症はどうやって調べる?

重症筋無力症が疑われる場合には、まず症状の出方を詳しく確認します。

特に、

「使っていると悪くなる」
「休むとよくなる」
「朝より夕方に悪くなる」

という特徴は診断の大切な手がかりになります。

そのうえで、

  • 血液検査(抗AChR抗体、抗MuSK抗体など)
  • 神経を繰り返し刺激して筋肉の反応を調べる検査(反復刺激試験)
  • まぶたを冷やして症状が改善するかをみる検査(アイスパック試験)
  • 薬を使って一時的に症状が改善するかを確認する検査

などを、症状に応じて組み合わせて診断します。

また、重症筋無力症では胸腺腫という胸の中の腫瘍を合併することがあるため、CTなどで胸腺を調べることもあります。


重症筋無力症は治療できる?

重症筋無力症には治療があります。

症状を改善するために、神経から筋肉への信号を伝わりやすくする薬を使用することがあります。

また、重症筋無力症は自分の免疫が誤って神経と筋肉のつなぎ目を攻撃してしまう病気なので、暴走している免疫を抑える治療も重要です。

病型や重症度によっては、点滴治療や血液を浄化する治療、胸腺の手術などを行うこともあります。

さらに近年では、分子標的薬と呼ばれる新しい治療薬も次々と登場し、治療の選択肢が増えています。

治療法は症状や病型によって異なるため、一人ひとりに合わせて選択します。


息苦しさや飲み込みにくさが急に悪化したら要注意

重症筋無力症では、まれに呼吸に必要な筋肉まで力が入りにくくなり、急激に呼吸状態が悪化することがあります。

これを**「クリーゼ」**と呼びます。

  • 息が苦しい
  • 唾液も飲み込みにくい
  • 急にむせがひどくなった
  • 声が急に弱くなった
  • 急速に全身の力が入らなくなった

このような症状がある場合には、通常の外来受診を待たず、早急に医療機関を受診してください。


重症筋無力症かも?何科を受診すればいい?

重症筋無力症は脳神経内科で診断・治療する病気ですが、最初から必ず脳神経内科を受診しなければならないわけではありません。

症状によっては、どの診療科へ行けばいいのかわからないことも多いと思います。

まぶたが下がる・ものが二重に見える

まず眼科を受診しても大丈夫です。

飲み込みにくい・鼻声になる

耳鼻咽喉科で相談することもできます。

息苦しさがある

呼吸器内科などで相談できます。

ただし、急激な息苦しさや飲み込みにくさがある場合には、診療科にこだわらず救急受診を検討してください。

手足や首の症状がある・いろいろな症状が重なっている

脳神経内科が専門になります。

▶︎ 脳神経内科ではどんな症状を診る?詳しくはこちら

眼科や耳鼻咽喉科、呼吸器内科などを最初に受診した場合でも、診察の中で重症筋無力症が疑われれば、脳神経内科へ紹介されて詳しい検査につながります。

「何科に行けばいいかわからないから」と受診を先延ばしにする必要はありません。

まずは、今いちばん困っている症状に合った診療科へ相談してください。


まとめ

重症筋無力症では、単に「力が弱くなる」だけではなく、筋肉を使い続けるとだんだんできなくなるという特徴があります。

特に、

  • 夕方になるとまぶたが下がる
  • 疲れるとものが二重に見える
  • 話していると鼻声になる
  • 食事の途中から顎や口の周りがだるくなる
  • 飲み込みにくくなる
  • 歯磨きや洗髪、ドライヤーを続けられない
  • 首を支えているのがつらくなる
  • 休むと症状が少し改善する

といった症状は、重症筋無力症を考えるきっかけになります。

症状は一日の中でも変化するため、病院を受診したときには症状が軽くなっていることもあります。

「疲れているだけかな」と思っていた症状の中に、病気のサインが隠れていることもあります。

気になる症状が続いている場合には、まずは症状に合った診療科で相談してみてください。

ABOUT ME
脳と神経の相談室
脳と神経の相談室
神経内科専門医・総合内科専門医
はじめまして。「脳と神経の相談室」を運営している女医です。 神経内科専門医・総合内科専門医として15年以上診療に携わっています。 外来でよくいただく質問を中心に、しびれ、頭痛、めまい、認知症などについて、専門的な内容をできるだけわかりやすく解説します。 不安を少しでも減らし、受診のきっかけになるような情報発信を心がけています。
記事URLをコピーしました